白神の水が磨く、秋田県三種町のじゅんさい
小舟の上で摘まれる、夏だけの“水の宝石”
秋田県北西部、白神山地の恵みを受ける三種町(みたねちょう)。

初夏になると、町のあちこちにあるじゅんさい沼は一面の緑に包まれます。水面に丸い葉が浮かび、風が吹くたびにゆっくり揺れる景色は、まるで緑のじゅうたん。その下に隠れているのが、つるんとした透明なぬめりに包まれた若芽、じゅんさいです。
じゅんさいは、池や沼に育つ水草の一種。食べるのは、まだ開ききる前の若い芽です。小さな芽をそっと摘むと、ゼリーのようなぬめりが光を受けてきらりと輝きます。口に入れると、まず感じるのはなめらかなのどごし。続いて、ぷるんとした食感と、淡い香りが広がります。強い味で主張する食材ではありません。だからこそ、清らかな水、収穫する人の手、食べる時の温度やだしの味が、そのままおいしさに表れます。
三種町のじゅんさいを語るうえで欠かせないのが「水」です。じゅんさいは、どこでも簡単に育つものではありません。きれいな淡水、静かな沼、暑すぎず寒すぎない季節の移ろい。そうした自然条件がそろって、ようやく良質な若芽が育ちます。三種町では、白神山地や出羽丘陵に連なる豊かな自然の中で、じゅんさいが大切に育てられてきました。
収穫は、今も昔ながらの手摘みです。生産者は小さな箱舟に乗り、身をかがめながら水面の葉をかき分けます。目で見えるのは葉だけ。手を水の中に入れ、指先の感覚で若芽を探します。大きすぎるものは硬くなり、小さすぎるものは商品になりません。ちょうどよい芽を見つけたら、傷つけないようにそっと摘み取ります。水の上で行う作業は、見た目以上に根気と集中力が必要です。
じゅんさいの収穫時期は主に5月から8月。短い夏の間に、沼の表情は少しずつ変わっていきます。出始めの若芽はぬめりが多く、みずみずしい味わい。盛夏に向かうと収穫量も増え、町の食卓や直売所、飲食店に季節の便りとして並びます。三種町では、じゅんさい摘み採り体験も行われており、観光客が箱舟に乗って収穫を体験できることも魅力の一つです。食べるだけでなく、自分の手で摘んでみると、ひと粒のじゅんさいにどれだけの手間がかかっているかがよく分かります。


食べ方は、まずシンプルに。さっと湯に通して氷水でしめ、ポン酢や酢醤油、わさび醤油で味わうと、じゅんさい本来の食感が楽しめます。冷たい小鉢にすれば、暑い日の食卓に涼しさを運んでくれます。すまし汁に浮かべれば、椀の中で緑の若芽が美しく映えます。
そして、秋田らしい食べ方が「じゅんさい鍋」です。鍋と聞くと冬の料理を思い浮かべますが、じゅんさい鍋は夏に食べたい郷土料理。鶏肉、ごぼう、ねぎ、きのこ、豆腐などを入れただしに、最後にじゅんさいを加えます。火を通しすぎないのが大切で、色が鮮やかな緑に変わったところが食べごろ。鶏のうまみをまとったじゅんさいは、つるりとのどを通り、暑い季節でも不思議と箸が進みます。

じゅんさいは、見た目の美しさだけでなく、地域の暮らしを映す食材でもあります。沼を守ること、水を守ること、手仕事を受け継ぐこと。そのすべてが、あの小さな若芽の中に詰まっています。もし水が濁れば、じゅんさいは育ちにくくなります。摘む人がいなくなれば、食文化として続いていきません。だから三種町のじゅんさいは、単なる特産品ではなく、自然と人が一緒に守ってきた町の宝物なのです。
「じゅんさい祭り」を開催
今回、サン・フレッシュのバイヤーも三種町の産地を訪ね、じゅんさいが育つ沼、手摘みの様子、生産者の想いに直接触れました。売場に並ぶ商品を見るだけでは分からない、水の清らかさ、収穫の手間、そして産地の空気。そうした背景を知ることで、じゅんさいは「夏の珍しい食材」から、「産地の物語ごと味わう食材」へと変わります。
その魅力を首都圏のお客様にもお届けするため、2026年7月、サン・フレッシュ横浜髙島屋店・玉川髙島屋店にて、三種町のじゅんさいを紹介する「じゅんさい祭り」を企画しています。つるんと涼やかな食感、夏の食卓に合う食べ方、産地ならではの魅力を、店頭で分かりやすくお伝えします。
また、期間中はじゅんさいだけでなく、秋田県産の農産物もあわせて店頭に並ぶ予定です。秋田の豊かな自然が育てた野菜や果物とともに、産地の魅力を丸ごと感じていただける機会になります。
ひと口食べると、つるんと涼しい。けれど、その奥には、沼に浮かぶ小舟、朝の光、水面にかがむ生産者の姿があります。
三種町のじゅんさいは、夏だけに出会える“水の宝石”。2026年7月、横浜髙島屋店・玉川髙島屋店の売場で、その小さな輝きと秋田の恵みをぜひお楽しみください。